マーケティング戦略やビジネス戦略など企業活動でよく使われる戦略(Strategy)という言葉は、本来戦争用語です。最近の企業経営現場は戦場より競争が激しく、勝てない企業は生き残れない時代になりました。企業経営において戦争の戦略がよく登場することもそのためです。
ランチェスター戦略の概要
企業経営でよく登場する戦略としてランチェスター戦略というのがあります。イギリスの科学者であるフレデリック・ランチェスター(Frederic Lanchester)が発見した、ランチェスター法則による戦略のポイントは「初期戦力が少しでも優位である方が結果的には圧倒的に優位になる」ということです。
例えば、味方の戦闘機が5機で敵が3機であれば、戦力差は5:3ではなく、25:9になるという理論です。これを戦力の乗数効果(Multiple Effect)と言います。
戦争の戦略がマーケティングで使われることは珍しくありません。ランチェスター戦略は限られた資本をどこに投資すればより効果的かを決める、重要な企業戦略として生まれ変わりました。マスコミを使った広告や広報活動は戦争で多くの戦闘機から爆弾が打たれることと同じような戦略になります。ランチェスター戦略のポイントは初期投入戦力で市場のシェアを増やしていくことで、将来的な優位な立場を確保できるといったことです。そのため、多くの企業が新たな製品やサービスをリリースする際に、初期シェア率を高めるために多くのマーケティング費用を投資します。
ランチェスター法則
先ほど述べたように、ランチェスター法則の結論は互いに能力や性能が同じであれば、リソースが多い方が勝つし、被害はより少ないという法則です。この法則は第一法則と第二法則があります。
第一法則
「1:1での接近戦であれば、数が同じなら戦闘力が強い方が勝利する」です。この時に「戦闘力=数(武器の数)×質(武器の性能)」が成立します。
第二法則
「戦闘力が同一であれば、人数が多い方が勝利する」です。ここで、注目すべきことは (人数の差)に比例するのではなく、(人数の差)²に比例するという点です。この内容をビジネスに適応しますと、市場のシェア率1位を取られた場合に、シェア率をひっくり返すことはなかなか難しいです。例えば、シェア率が2:1であれば、2位企業が1位企業のシェア率を目指すためには、乗数効果によって4倍以上の努力が必要になります。ビジネス目線でいえば、4倍以上の良い商品を作るか、マーケティング費用が掛かるということになります。
企業の影響力や収益率も乗数効果で説明されます。先ほどの市場シェア率が2:1の企業を例にすると、収益率にも乗数効果が適用され、1位の企業と2位企業の収益率は4:1になります。
このように、ランチェスター戦略は初期のシェア率を上げることの重要性を語る時によく使われる用語になります。
ビジネスにおけるランチェスター戦略の活用
ランチェスター法則によると、ビジネスにおいては大手企業のようにリソースが多い企業が圧倒的に有利に見えます。ただし、この戦略を利用して大手企業(強者)と中小企業(弱者)に市場で優位に立つための方法があります。
まず、中小企業(弱者)の戦略です。
- ニッチの攻略(限定されてる領域での優位性)
- 顧客との密接な関係を重視
- 自社の強みに特化して勝負(戦闘力↑)
次に、大手(強者)の戦略
- 市場全体を攻略(規模の戦い)
- 広告、販売チャネル等、幅広い範囲のリソース活用
- サービスのパッケージ化等、広範囲にかかる総合的に勝負
ランチェスター戦略の事例
ランチェスター戦略を利用して、どのように企業が戦ってきたかいくつか事例を見たいと思います。まず、マイクロソフトとネットスケープです。マイクロソフトはDOSとWindowsでOS市場を独占してきた巨大企業です。しかし、インターネットの普及に伴い、ブラウザ市場の将来を革新したネットスケープはナビゲーターというブラウザを開発し、インターネットの普及し貢献するとともに、ブラウザ市場の85%以上のシェア率を達成し、企業を大きく成長させました。
ここでマイクロソフトはインターネットエクスプローラー(IE)を開発し、ブラウザ市場に参入しました。最小はなかなかシェア率を上げられなかったんですが、OS市場で独占的な地位を利用し、1997年発売されたIE4.0からOSをインストールすればデフォルトでIEもインストールされるようになり、ブラウザがインストールされている利用者がわざわざナビゲーターをインストールすることが激減し、急激にIEのシェア率が増えました。これは、強者がランチェスター戦略を利用し弱者を攻略した事例として挙げられます。(ただし、この方法はIT業界で反発があり、オープンソースソフトウエアの重要性に気付いた人々によって、後にナビゲーターを継承したFirefoxというブラウザが誕生されました。)
逆に、ランチェスター戦略を利用して強者に勝った企業の事例としては、ウォルマートがあげられます。 ウォルマートが事業を始める1960年代にはKmartがアメリカのほとんどの主要都市で店舗を運営していた。後発となったウォルマートは都心とは離れた田舎のニーズをキャッチし、Kmartと真正面から戦わず、田舎を中心で安い人件費と賃料を武器に徐々に事業を拡大させた。企業を拡大させる中でデジタルインフラに積極的に投資を行い、物流や在庫管理システムに強みを持てるようになり、1980年代後半には1200店舗まで成長した。その後、 ウォルマートのITインフラと低費用による低価格戦略でKmartは徐々に競争力が低下してしまいました。弱者ではあるが、限定的な範囲(田舎)での戦いで勝利しながら自分の強みを伸ばし、強者に勝てた事例になります。
このようにランチェスター戦略によって、強者は制約がある限定的な戦いに対する警戒をしつつ、初期リソース投入による優位を維持する必要があり、弱者は自分の武器(商品、サービス)と場所(ニッチ)、方法(マーケティング)で自分たちが勝てる小さな戦いを繰返し、徐々に成長していく必要があります。